人のために何かをすることを大切にする人がいる一方で、自分が得られるものを優先する人もいます。
また、与えることと受け取ることのバランスを大切にする人もいます。
同じ人間関係の中にいるのに、なぜこれほど行動に違いが生まれるのでしょうか。
実は、人との関わり方には、大きく分けて3つのタイプがあります。
ギバー(Giver)
自分が何かを得ることよりも、相手に与えることを大切にする人
テイカー(Taker)
相手から何を得られるか、自分にどんなメリットがあるかを重視する人
マッチャー(Matcher)
与えることと受け取ることのバランスを大切にする人
この分類は、組織心理学者のアダム・グラントが著書『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』で紹介している考え方です。
ここで興味深いのは、ギバーが必ずしも人間関係で幸せになれるとは限らないことです。
人のために動き、相手を優先しているのに、気づけば自分ばかり負担を抱えている。そんな状況に陥ることもあります。
さらに心理学的には、人のために与えるという行動には、相手を思う気持ちだけでなく、自分自身の欲求が関係していることもあります。
では、3つのタイプにはどのような心理があり、与えることが自分の負担になってしまうのはなぜなのでしょうか。
今日は、そんなお話です。
人に何かをするとき、心の奥では何を求めているのか
1.与えることに喜びを感じるギバー
ギバーは、見返りを求めずに人を助けたり、相手にとって役立つことを考えたりする傾向があります。
困っている同僚に自然に手を貸す、相手が忙しそうなら自分にできることを引き受ける、誰かの成功を自分のことのように喜ぶ。
こうした行動は、相手の役に立ちたいという気持ちから生まれます。
心理学では、自分以外の人の利益や幸福を考えて行動することを「向社会的行動」と呼びます。
人を助けることは、相手の役に立てたという満足感や、自分が誰かに貢献できているという感覚にもつながります。
ただし、ここにはもう一つの側面があります。
人のために何かをすることが好きな人でも、心の奥では、自分自身の何かを満たそうとしている場合があるのです。
例えば、
•誰かの役に立つことで、自分の価値を感じたい
•必要とされることで、自分の居場所を確かめたい
•相手に喜んでもらうことで、自分も安心したい
•人に嫌われたり、関係が悪くなったりすることを避けたい
こうした思いは、必ずしも本人が自覚しているとは限りません。
「相手のためにしてあげたい」という意識の奥に、「役に立てる自分でいたい」「必要とされていたい」という無意識の欲求が隠れていることもあります。
もちろん、それによって相手を思う気持ちが偽物になるわけではありません。
人のために何かをしたい気持ちと、自分も満たされたい気持ちは、同時に存在するものです。
大切なのは、与えるという行動の奥に、自分が何を求めているのかという視点です。

2.同じギバ-でも、与え方には違いがある
実は、ギバーにはさらに分けて2つの与え方があります。
ひとつは、自分のことを後回しにしてでも相手に与えようとする「自己犠牲型ギバー」。
もうひとつは、相手の利益だけでなく、自分自身の利益も大切にする「他者志向型ギバー」です。
自己犠牲型ギバーは、相手のために時間や労力を使い続けるうちに、自分の負担が大きくなってしまうことがあります。
一方、他者志向型ギバーは、相手を助けることと同じように、自分の時間やエネルギーも大切にします。
つまり、相手に与えることと、自分を大切にすることは両立できるのです。
グラントは、ギバーの中にも、自分を犠牲にして与える人と、自分の利益にも目を向けながら他者に与える人がいることを示しています。
人に与えることが、そのまま成功につながるわけではありません。
自分を消耗させず、相手にも自分にも目を向けた与え方が、長期的に疲れずにすむ可能性があるのです。

3.自分が得ることを優先するテイカー
一方、テイカーは、自分が何を得られるかを重視する傾向があります。
誰かに何かを頼むときも、自分にとって都合がよいか、どれだけメリットがあるかを考えます。
自分が助けてもらうことには積極的でも、相手のために時間や労力を使うことには消極的。こうした行動が見られることがあります。
ただし、テイカーだからといって、必ずしも悪意を持っているわけではありません。
自分の利益を優先することが当たり前になっていたり、人との関係を自分が得をするかどうかで判断する習慣が身についていたりする場合もあります。
また、自分が損をすることへの不安や、他人を信用しにくい気持ちが関係していることも考えられます。
大切なのは、相手の行動の背景を考えることと、その行動を無条件に受け入れることは別だという点です。

4.与えることと受け取ることのバランスを考えるマッチャー
マッチャーは、与えることと受け取ることの公平さを大切にします。
自分が助けてもらったら、今度は相手を助ける。自分ばかり負担するのではなく、お互いに支え合える関係を望みます。
人間関係には「返報性の原理」という心理的な働きがあります。
人から何かをしてもらうと、自分も何かを返したい、あるいは返さなければならないと感じる心理です。
こうした相互性は、人との関係を維持するうえで重要な役割を果たします。
ただし、公平さを重視するあまり、貸し借りを意識しすぎることもあります。
「あのとき自分は助けたのに」
「今回は自分ばかり負担している」と、やり取りの差が気になりやすくなる場合もあるのです。

5.3つのタイプは固定された性格ではない
ギバー・テイカー・マッチャーは、人間を完全に3種類に分類するものではありません。
人は相手や状況によって、与えることもあれば、受け取ることもあります。
また、普段は人に協力的な人でも、自分に余裕がないときには自分の利益を優先することがあります。
どのタイプが優れているかということではなく、自分がどのような思いで人と関わっているのかを知ることが大切です。

人のために動いているのに、自分ばかり疲れてしまう理由
例えば、職場にこんな2人がいたとします。
Aさんは、周囲の状況によく気づき、誰かが困っていれば自然に手を貸す人です。自分の仕事が残っていても、同僚から頼まれれば引き受けることがあります。
一方、Bさんは自分の仕事を優先し、困ったときには周囲に助けを求めます。しかし、誰かが困っていても、自分から手を貸すことはあまりありません。
AさんはBさんの仕事を何度も手伝ってきました。
ところが、ある日Aさんが忙しくなり、Bさんに協力を求めると、あっさり断られてしまいました。
Aさんは納得できません。
「これまで何度も助けてきたのに、どうして自分が困ったときには助けてくれないのだろう」
このとき、Aさんの中では何が起きているのでしょうか。

1.相手のために与えることで、自分も満たしていた
Aさんは、Bさんを助けるとき、意識的に見返りを求めていたわけではないかもしれません。
ただ、何度も協力しているうちに、「自分が困ったときには、相手も協力してくれるだろう」という期待が生まれていた可能性があります。
それだけではありません。
Aさんは、Bさんの役に立ちたいと思う一方で、心の奥では、感謝されることで自分の価値を感じたり、頼られることで自分の居場所を確かめたりしていたのかもしれません。
人に何かを与えるとき、私たちは必ずしも相手のためだけに行動しているわけではありません。
相手の喜ぶ姿を見て自分もうれしくなったり、誰かの役に立つことで自分の存在意義を感じたりすることもあります。
それは、相手を思う気持ちが偽物だということではありません。
人のために何かをすることと、自分自身も満たされることは両立するからです。
ただ、相手から期待した反応が返ってこなかったとき、初めて自分が何を求めていたのかに気づくことがあります。
Aさんが感じた納得できなさの奥には、単に手伝ってもらえなかったことだけでなく、自分の存在や行動を大切にしてもらえなかったという思いが隠れていたのかもしれません。

2.与えることと、自分を犠牲にすることは違う
では、AさんはこれからBさんを助けない方がよいのでしょうか。
そうとは限りません。
大切なのは、相手を助けるかどうかを、自分の意思で選べているかということです。
例えば、自分の仕事に余裕があるときに手を貸すのと、自分の仕事が終わらなくなるとわかっていても引き受けるのとでは、同じ手助けでも意味が違います。
「断ると相手に悪い」「頼られなくなるかもしれない」といった気持ちから引き受けていると、いつの間にか自分の意思よりも相手の反応を優先するようになります。
一方、自分の状況を考えたうえで、できる範囲で協力することもできます。今は難しいと判断すれば、断ることも選択肢の一つです。
相手がどう行動するかは、自分には決められません。自分がどこまで時間や労力を使うかは、自分で決めることができます。
与えることをやめる必要はありません。相手を大切にすることと、自分を大切にすること。その両方を選べることが、無理なく人に与え続けるための大切な視点なのです。

幸せを左右するのは、与える量ではなく、自分の心を知っているか
ギバー・テイカー・マッチャーという3つのタイプから見えてくるのは、人間関係における価値観の違いです。
誰かのために動くことを喜びと感じる人もいれば、自分が得られるものを優先する人もいます。そして、お互いに公平であることを大切にする人もいます。
では、幸せなのはどちらでしょうか。
与える人か、与えられる人か。それだけではわかりません。
人のために与えることが好きでも、その奥に「必要とされたい」「嫌われたくない」「自分の価値を感じたい」という思いが強くあると、相手の反応に自分の満足感が左右されてしまうことがあります。
反対に、自分の利益を大切にすることも、相手を顧みないこととは違います。
大切なのは、自分が何を求めて人と関わっているのかを知り、自分の意思で与えることも、受け取ることも選べることです。

心理テスト あなたのタイプは?
ここで、少し自分の人との関わり方を振り返ってみましょう。
次の質問に、普段の自分に最も近いものを選んでみてください。
心理テスト
Q1.同僚から仕事を手伝ってほしいと頼まれたら?
A:自分の仕事が残っていても、相手が困っているなら引き受ける
B:相手を助けたいと思うが、自分の仕事との兼ね合いも考える
C:自分にとってメリットがあるかどうかを考える
D:以前、自分も助けてもらったかどうかを考える
Q2.誰かのために時間や労力を使ったとき、どんな気持ちになる?
A:自分が大変でも、相手の役に立てたならうれしい
B:相手の役に立てたことも、自分にとってプラスになったこともうれしい
C:自分にとって何か得るものがあったかが気になる
D:相手も同じように協力してくれるとうれしい
Q3.自分が困っているとき、相手が助けてくれなかったら?
A:モヤモヤしても自分が我慢し、次に困っていたらまた助けてしまう
B:残念には思うが、自分ができる範囲で協力してきたことに納得している
C:自分に何の利益もない相手なら、今後は関わる必要がないと思う
D:これまでの関係を振り返り、自分ばかり与えていないか気になる
Q4.人から何かを頼まれたとき、断ることについては?
A:自分が無理をしてでも、相手の期待に応えようとする
B:相手の力になりたいが、自分にできる範囲で引き受ける
C:自分にとって得になるか、負担に見合うかを考える
D:自分ばかり引き受けることにならないかを考える
Q5.誰かが成功したり、評価されたりしたときは?
A:自分が評価されなくても、その人が喜んでいるならうれしい
B:相手の成功を喜びながら、自分も成長するきっかけにしたいと思う
C:その成功が自分にどのような利益や影響をもたらすかが気になる
D:相手の努力や成果と、自分の努力や成果とのバランスが気になる
Q6.人間関係で大切にしたいことは?
A:自分がどれだけ大変でも、相手の役に立つこと
B:相手も自分も大切にし、お互いにプラスになること
C:自分にとって価値やメリットのある関係であること
D:与えることと受け取ることが公平であること
あなたはどのタイプ?
選んだ回答の数を数えてみましょう。
Aが最も多い人:自己犠牲型ギバー傾向
Bが最も多い人:他者志向型ギバー傾向 Cが最も多い人:テイカー傾向
Dが最も多い人:マッチャー傾向

自己犠牲型ギバー傾向の人
相手の役に立つことを大切にし、自分の負担が大きくなっても相手を優先しやすいタイプです。人の喜びを自分の喜びとして感じられる一方で、断ることに抵抗があったり、自分のことを後回しにしたりすることもあります。相手を大切にするのと同じように、自分の時間や労力も大切にできているかが振り返るポイントです。
他者志向型ギバー傾向の人
相手の役に立つことと、自分自身の利益や満足感の両方を大切にするタイプです。相手に与えることを喜びながらも、自分の負担や状況を考えて行動できます。相手のために何かをすることが、自分にとっても意味のある行動になっていることが特徴です。
テイカー傾向の人
自分の利益やメリットを優先するタイプです。自分にとって何が必要かを判断できる一方で、自分が得るものに意識が向きすぎると、相手の立場や負担が見えにくくなることもあります。自分の利益だけでなく、相手にとってどのような関係になっているかを考えることがヒントになります。
マッチャー傾向の人
与えることと受け取ることのバランスを大切にするタイプです。お互いに支え合い、公平な関係を築くことを望みます。一方で、貸し借りや不公平さを意識しすぎると、相手の行動によって自分の気持ちが左右されることもあります。必ずしも同じ形で返ってこなくても、お互いを尊重できる関係かどうかが振り返るポイントです。
なお、このテストは性格を決めたり、心理的な特性を診断したりするものではありません。人は相手や状況によって行動が変わるため、複数のタイプが同じくらい当てはまることもあります。
また、気分や置かれている環境によって結果が変わることもあります。時間をおいて再度テストしてみると、そのときの自分の人との関わり方が見えてくるかもしれません。

おわりに
あなたは人に何かを与えるとき、相手のために何をしたいと思い、自分自身は何を得ているのでしょうか。
その背景に目を向けると、いつもの人間関係を違った角度から見られるかもしれません。
答えに正解はありません。
ただ、その問いを通して、自分が本当に望んでいることや、無意識のうちに満たそうとしていたものに気づくことがあります。
人のために与えることは、素敵なことです。
けれど、自分を犠牲にしなければ続けられない関係なら、その関わり方を見直す余地があります。
相手を変えることは難しくても、自分が何を大切にし、どのように関わるかは変えていけます。
もし、人間関係で同じようなことを繰り返していたり、自分でも理由がわからないまま相手を優先してしまったりするなら、その背景には、まだ言葉になっていない思いが隠れているのかもしれません。
ピュシカでは、目の前の出来事だけでなく、自分でも気づいていない心の動きや、その奥にある欲求を探していくお手伝いができます。
自分がなぜ相手を優先してしまうのか。
なぜ相手の反応が気になるのか。
その理由をたどっていくと、自分でも気づいていなかった欲求や、本当に望んでいる人間関係が見えてくることがあります。
これからの人間関係を変えていくために、自分の行動の奥にある思いを、一度じっくり探ってみませんか。
参考文献
アダム・グラント(著)・楠木建(監訳)『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』三笠書房、2014年。
Gouldner, A. W. (1960). The Norm of Reciprocity: A Preliminary Statement. American Sociological Review, 25(2), 161–178.
Homans, G. C. (1958). Social Behavior as Exchange. American Journal of Sociology, 63(6), 597–606.


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